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By Nao Tsuchiya

Principal Technical Consultant at Brightcove

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//Video Addict// Vol.2 テレビ東京 段野氏(前編)〜マルチキャリアを経験して見えてきた事〜

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Video Addict Vol.2では、前回本連載にて取り上げた日本テレビ放送網様と共に、キャッチアップサービス(見逃し配信サービス)の先駆者であるテレビ東京様について取材します。

テレビ東京では、SSAI(Server Side Ad Insertion)(*1)やアプリの内製化など、キャッチアップサービス業界で常に新しい試みを率先的に実施されています。その中心人物である段野氏に、これまでの経歴やキャッチアップサービスの立ち上げについてお話頂きます。

段野 祐一郎(だんの ゆういちろう)氏
株式会社テレビ東京コミュニケーションズ
動画・データビジネス部 テックリード

2007年テレビ東京入社。システム部を経て制作技術部で様々な制作現場を経験。その後、テレビ東京コミュニケーションズにて動画配信サービスにテックリードとして従事。2019年よりテレビ東京 配信技術部で動画配信技術を軸に企画開発や技術戦略立案を担当。

テレビ東京に新卒入社した際はカメラマン志望

ブライトコーブ(以下 BC)土屋 我々の認識ですと、キャッチアップサービス業界において、業界初の取り組みを実施されるのは段野さんのチームという印象です。例えば、同時再送信ライブでのSSAI(*1)の実装や、動画専用のレコメンドツール(Iris.TV)の導入、民放VODアプリトップシェア「ネットもテレ東」アプリの内製化+オフショア開発などがあると思うのですが、そのような業界初の取組にリスクはつきものです。

チャレンジングなプロジェクトにも物怖じしないマインドセットは、一足飛びに得れるものではないと思うので、どのような経験を今までされてきたんでしょうか。

テレビ東京(以下 TX)段野氏 テレビ東京に新卒入社した際はカメラマン志望で、テレビが好きでテレビ番組の制作をしたいと考えていましたが、入社後に最初に配属された部署は情報システム部門でした。

社内SEの業務は、要件定義書やRFPを用意して、ユーザーの業務整理をすることがメインなのですが、私のメンターが同時期に開発会社から転職してこられた凄腕のプログラマーの方で、「社内システムであろうと、より良いシステムを作っていくのであれば社内SEでも技術面をもっと深く理解する必要がある」という話をされ、上長の許可を取った上で、二人で様々な社内システムを内製で作りはじめました。実際のシステム開発を通してサーバーサイドからフロントエンド、データベースまでかなり鍛えられたのと、やりたいことを実現するために実績が少ない新しい技術でも積極的に採用したので、チャレンジングな精神もそのときに身についたのかなと思います。

BC土屋 カメラマン志望で情報システム部門配属は結構なギャップだと思うのですが如何でしょうか?

TX段野氏 確かにギャップはあったのですが、もともとモノづくりは好きで、大学生の時は映像を撮って加工して編集してました。システムも同様で、手間はかかるのですが、社内ユーザーから「今までのシステムと違って使い勝手が良くなったよ」といったフィードバックを頂けたのでやりがいもあったし、モノづくりの楽しさが喚起されましたね。

BC土屋 なるほど。その当時のメンターの方が、部門に強い影響力があったんですね。これは段野さんだけではなくて、貴社の他の方にも同様のマインドセットを感じるので、若いときの経験って改めて大事ですね。情報システム部門には何年いらっしゃったんですか?

TX段野氏 丸4年ですね。その後、カメラマンとして4年間従事しました。

BC土屋 念願の部署だとは思うのですが、あまりにもスキルセットが異なるので苦労されたのではないでしょうか?

TX段野氏 今まで習得したIT技術は直接カメラマン業務には活かせなかったし、文化も全然違ったので苦労しました。ただ、テレビに携わる者として視聴者を意識するという点をかなり鍛えられたのは良かったです。ディレクターもカメラマンも番組制作に携わる人は、徹底的に視聴者のことを意識していて、常に視聴者がどのような映像を見たいのかを考えているんです。この圧倒的な視聴者意識は、いまのキャッチアップサービスの開発でユーザーファーストに物事を考えることに活かすことができているので、良い経験をすることができたと思っています。
また、プロ意識を持つことができたことも大きかったです。番組制作は自分が1分遅かっただけで、全員の1分が遅れるんですよ。その遅れが制作費に影響し、やりたかった演出ができなくなる可能性があるので、常に個々でプロ意識をもってより良いものを作る他にも、生産性を上げていくことも重要なんだということを学びました。その経験も今に活きていると思ってます。

もっと簡単に多くの方々に番組を視聴してもらう方法はないか

BC土屋 なるほど、そのようなプロ意識で番組は制作されているんですね。その後、現在所属されているテレビ東京コミュニケーションズに出向される訳ですよね?

TX段野氏 そうです。お話しした通り、番組制作って本当に大変なんです。カメラだけではなく、制作に関わる人すべてが1フレームも気を抜かず、視聴者の方に楽しんでもらうために全力投球しています。制作に携わった番組は愛着があるのでより多くの人に視聴してもらいたいのですが、若年層のテレビ離れが進んでいるという実態もあります。担当した番組の視聴率が悪いと、いちカメラマンながら悔しい思いをしてました。テレビ録画機器も機能が増えていて、録画した番組をスマートフォンで見れる機能なんかがあったりしますが、もっと簡単に多くの方々に番組を視聴してもらう方法はないかな...とモヤモヤしてましたね。
そんな中、2015年にインターネット上で「Newsモーニングサテライト」をサイマル(テレビ放送時と同タイミング)でライブ配信する話と、広告付きでキャッチアップ配信する企画が浮上し、情報システムと放送技術どちらもある程度精通しているだろうと、私が社内リクルートされました。

BC土屋 その時のチーム構成を教えて頂いていいでしょうか?

TX段野氏 4ヶ月でローンチしなければいけないということで、プロジェクトオーナーに蜷川(現 テレビ東京コミュニケーションズ 取締役)が立ち、コンテンツ系、技術系など数名の小規模なチーム編成でした。時間がない中、やらないといけないことがありすぎたので、あまりチームメンバー間の壁はなく、お祭り前の騒ぎみたいな感じでした(笑)。

BC土屋 そのような突貫プロジェクトは、立ち上げ時に様々なトラブルが付き物だと思いますが如何でしょうか?

TX段野氏 リリースまで一ヶ月を切ったタイミングで、利用を想定していた動画広告配信サーバーが、同社の諸事情によるリソース不足から導入サポートのギブアップ宣言をされてしまい、急遽別のアドサーバーを選定する必要が出たのは本当に焦りました。アドサーバーを決定してからは、時間も無いので毎晩寝る間を惜しんで取り組んでました。
もう一つは、「iOSアプリあるある」ですが、開発したアプリがApple社の審査に通らなかった...。UI/UX等について大量の指摘がApple社からあり、とりあえずはアプリではなくブラウザーでサービスを提供しました。並行して指摘事項は一つずつ修正し、最終的には二ヶ月遅れの6月くらいにリリースできました。

キャッチアップサービスを通じて「テレビ東京」のブランド価値を高める

BC土屋 その当時の審査は非常に厳しかったですよね。その後、現在までキャッチアップサービスを継続されている訳ですが、過去に段野さんが「視聴率でテレビ東京が1位になることは簡単では無い。ただ、ネットでは存在感を見せたい」といった内容の発言をされているのをお伺いしました。今、段野さんとしては状況をどのように捉えられていますか?また、今後の目標や秘策があれば教えてください。

TX段野氏 まだまだ道半ばで、弊社内でも今後の目標については常に議論したうえでアップデートしています。以前は「ベストアプリに選ばれる」といった目標を立てていました。今はそれと合わせて、キャッチアップサービスを通じて「テレビ東京」もしくは「テレビ東京の番組」のブランド価値を高めることを意識しています。
弊社について世間一般の方々がどのようなイメージを持っているかアンケートをしてみると、有り難いことに概ね良いイメージを持っていただいています。これは、弊社の番組を見て頂いていて、視聴者の方が「面白いな」とか「尖ってるな」と感じて頂いている結果といえます。このイメージは開局以来積み上げてきた弊社の強みであり、番組を選んでもらう上での重要なきっかけ、競争力の源泉だと考えています。

また、放送だけではなく、今後新規事業をやっていく上でもブランドイメージは大事です。例えば、メルカリ社がスマホ決済サービス「メルペイ」をローンチした時は、メルカリを使ったことある人はその使い勝手やサービスの良さから「メルカリ社のサービスなのできっと良いサービスなんだろう」と考えて使ってみた人が多かったそうです。それはメルカリ社のブランド力の強さといえます。視聴者に「テレ東だから面白そう」と思って頂けるイメージは、数ある競合の中から選んでもらう、見てもらう上で強みなので、今後も継続してもらうように努力しないといけません。テレビ東京の番組に触れる機会が減ってしまうと、その良いイメージ自体が想起されなくなってしまうので、さらに今よりも見てもらう機会が減ってしまうという危機感を持っています。

「テレビ東京」を冠するサービスはすべて、その意識を持って取り組まないといけないと考えています。例えばキャッチアップサービスのアプリの出来が良くないと、会社のイメージダウンに繋がるので、より良い視聴者体験を提供するように努力していますし、そのためにも新しい技術にも積極的にトライしています。
まずは担当しているキャッチアップサービスで、より多くの人に弊社のコンテンツやサービスに触れてもらい、収益面だけではなくブランド価値を向上させることで、テレビ東京全体の収益を向上させることにも繋がると考えています。

キャッチアップサービスの利用率拡大が、番組の視聴者を増やし、テレビ東京のブランド価値を高めるという段野氏。後編ではデータの分析手法や、次々と業界初の試みを実践される同社の組織についてお話頂きます。

*1
SSAI(Server Side Ad Insertion): インストリーム広告をクライアントサイドで挿入するCSAI(Client Side Ad Insertion)と違い、サーバーサイドで広告挿入を行う方法。この方法により、広告視聴体験の向上、クライアント側の開発コストの削減、広告ブロッカーの無効化による広告在庫数の増加が期待できる。


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