GEMパートナーズの「映像配信/放送/映像ソフト市場ユーザー分析レポート」によると、2018年は定額制映像配信サービスの利用率が有料放送を上回り、広告モデルを利用した無料映像配信の利用率も51.3%と引き続き上昇している。
テレビ、新聞、インターネットのメディア業界における映像配信の歴史は、業界の黎明期から今日に至るまで、決して平坦なものではなかった。そこには無名の挑戦者 "Video Addict "たちが、さまざまな試行錯誤と失敗を乗り越えてきた歴史がある。本連載では、インタビュアーの土屋が12回にわたってさまざまな挑戦者たちの歴史を振り返る。
川越 五郎
日本テレビ放送網株式会社
ICT戦略本部 データ戦略部 部長
IT企業での開発・設計・管理業務を経て、2013年10月に日本テレビ放送網株式会社に入社。入社後は、日テレフリーやTVerなどの広告付き無料配信の開発・技術管理、グループの配信インフラ構築に携わる。その後、2018年10月にデータ戦略本部を立ち上げ、全社的なデータ活用を推進中。
テレビ局のコンテンツをインターネットで見せるというアイデアにとても惹かれました。
ブライトコーブ(以下BC)土屋:まず、今回初めてインタビュアーを務めさせていただくということで、光栄に思っているのですが、初期から携わっている川越さんにお話を伺いたいと思い、お願いしました。日本初のキャッチアップ(見逃し番組)配信がリリースされたのが2014年1月で、弊社がアプリ開発に携わった時期でもあると思うのですが、川越さんのこれまでのキャリアと、このサービスがリリースされた背景を簡単に教えてください。
日本テレビ・川越さん(以下、川越):最初は2014年1月にリリースした「NTVいつでもどこでもキャンペーン」です。私自身は転職組で、システム開発会社を転々としていました。その過程で、プログラミングだけでなく、要件定義や基本設計といった上流工程も経験しました。
BC土屋:日本テレビに入社される前は、システム開発会社だけでなく、事業会社にも勤務されていたのですか?
日本テレビ・川越:ですね。そこで働いているときに、今の会社に声をかけていただいたんです。もともとIT業界で働いていたので、最初はテレビ局自体にはあまり興味がなかったのですが、テレビ局のコンテンツをネットで見せるというサービスに魅力を感じ、転職を決意しました。
BC土屋:日本テレビに転職されたとき、サービス内容はどこまで決まっていましたか?
日本テレビ・川越:はい、お話をいただいたときは全番組を配信する予定でしたが、詳細を詰めていくうちに、権利の問題などできないことがいろいろ出てきたので、まずは5番組くらいから始めました。

BC土屋:さんがこれまで働いてきたテレビ業界とはまったく違うと思いますが、驚いたことや戸惑ったことはありますか?
日本テレビ川越:テレビの仕事の流れそもそも、テレビで放送されている内容がテープで運ばれていることすら知りませんでした。また、CMのポジションが黒を入れて作られていることも知らなかったので、ひとつひとつ理解するのに時間がかかりました。ワークフローとしては、番組を作り、テープで日本テレビグループの系列局に持ち込み、MP4にエンコードするというものだった。そのワークフローがまったく見えなかった。
BC土屋:前職で映像やITに携わった経験は?
日本テレビ・川越:全然違いますよ(笑)。
BC土屋: 2013年に初めてお会いしたとき、"私は知らないことが多いので、何でも教えてください "と言われたのを覚えています。
日本テレビ・川越:ただ、全くの異業種から来た私を、本当に丁重に迎えてくれたという印象です。キャッチアップ配信を実施するにあたっては、企画、営業、ネットワーク、ライツマネジメントなどの部署に関わることができたので、個人的にはいい環境だったと思います。私の場合は、人にお願いし続けました。そんな中で、土屋さんには映像技術面のことをよく聞きました。
大きな問題もなく、"ブライトコーブは美しい "と思いました。
BC土屋:日本テレビいつでもどこでもキャンペーン」の開始について教えてください。
日本テレビ・川越:新しいサービスがリリースされると、みんな同じことをするのかもしれませんが、私はドラマのテレビ放送が終わった瞬間に、F5を押しながらパソコンでリフレッシュ、リフレッシュ、リフレッシュ(笑)。サービス開始の瞬間を待っていたような感じです。
BC土屋:社内でも新しい取り組みでしたし、当時は地方にいたので、そこのホテルでAndroidアプリをチェックしたのを覚えています。キャッチアップサービスは他のメディアでも展開されていたので、同時に複数のサービスの品質を比較した記憶があります。
日本テレビ・川越:ブライトコーブは大きな問題もなく美しいという話をしたのを覚えています。
BC土屋:最初は広告を出さずに無料で配信していたのですが、広告を出すようになって、2014年の春ごろにフォアキャスト・コミュニケーションズさんや川越さんとホワイトボードで広告配信をする仕様について話し合った記憶があります。
日本テレビ・川越:はい。
BC土屋:そのときの話を聞いていると、基本的な仕様は変わっていないんですね。というか、今でもプレミアム広告の業界標準ですよね。
日本テレビ・川越: はい。そのときに決めた仕様は、当時の営業も含めて、使い勝手も含めて社内でスムーズに受け入れられたと思います。
開発には3ヶ月しかかかりませんでした。
BC土屋:立ち上げで一番苦労したことは何ですか?
日本テレビ・川越:開発期間は3ヶ月くらいしかなかったんですよ(笑)。フロントエンドのユーザーインターフェイスはもちろん、バックエンドのCMSも開発しなければならなかったので、短い納期はかなり厳しかったと思います。
BC土屋: よくあるITの問題ですね(笑)。キックオフミーティングは2013年11月上旬でしたから、実際には3カ月弱でした。
日本テレビ・川越:また、当時GYAOさんにも番組を提供していたのですが、番組予告の広告枠を「日本テレビいつでもどこでもキャンペーン」とまったく同じ仕様で納品する必要がありました。
BC土屋:日本テレビが管理している広告サーバーからGYAOの選手に配信すれば、技術的には簡単ですよね?
日本テレビ・ 川越:そうなんですが、当時はいろいろな制約があって、第三者配信システムを使えなかったので、GYAOさんのアドサーバーに1本1本素材を送って設定してもらう必要がありました。これは運用面で非常に大変でした。日本テレビが最初に導入したのですが、エコじゃないところから始めてしまったという反省もあって......その後、第三者配信システムに切り替えるべきだという議論になりました。とある技術交流会で、各テレビ局の関連会社の方々と第三者配信を認めていただくための打合せを行い、最終的にはGYAOさんにご快諾いただきました。両社の思惑がうまく合致して、どうにか認めてもらえたのだと思います。
BC土屋:それは大きな一歩ですね。外から見ていると、なかなかそういうことはできない。技術的な実現可能性や理想の形を知っている人が集まれば、決めるのは簡単ですが、実際に実現するには時間がかかります。
日本テレビ・川越:他社に関して言えば、テレビ局も例外ではありません。
BC土屋:各テレビ局の話が出ましたが、まだTVerが始まっていなかった当時、テレビ局同士の技術的なコミュニケーションや連携はどのように行われていたのでしょうか?
日本テレビ・川越: 放送技術に関する検討会はあったと思いますが、インターネットサービスに関しては、TVer研究会ができるまではあまりコミュニケーションがなかったかもしれません。後にTVerとなるサービスの勉強会をきっかけにコミュニケーションが生まれたと思います。
BC土屋:なるほど、そういう意味でもTVerの存在は大きいですね。キャッチアップ・サービスについては、TBS、テレビ東京、フジテレビが追随する中、他局の動きをどう感じましたか?
日本テレビ・川越:私も含めて、喜んでいる人はたくさんいた。みんな多かれ少なかれ「早くやってくれ」と言っていたと思います。我々も各局と積極的に情報を共有し、なるべく簡単に立ち上げられるように意識していました。だから、各局がサービスを開始すると、TVerの反省会も始まった。これは本当にいい流れだったと感じています。
当時、無から有を生み出したパイオニアでありながら、川越さんの謙虚な姿勢はとても印象的でした。
現在はキャッチアップ・サービスの担当ではなく、データ戦略本部に所属しているという。次回は、川越氏の同事業部での仕事について、インタビューの続きをお届けする。お楽しみに![後半はこちら】(https://www.brightcove.com/ja/resources/blog/video-addict-vol1-ntv-2)