WebM/VP8 動画コーデックがアレな件
サンフランシスコで開催されている Google I/O カンファレンスで、Google から新しいオープンソースの動画コ ーデック WebM (http://www.webmproject.org) が発表されました。この動画コーデックは Google が先日買収を完了した On2 の VP8 で、ロイヤリティフリー(Mozilla License)で使うことができます。Mozilla、Opera、Adobe など業界のリーディングカンパニーによる WebM コーデックのサポートも同時に表明されました。Brightcove もWebM をサポートする OVP(オンライン動画プラットフォーム)として Google I/O に参加しました。このブログエントリでは Google から登場したこの新しい動画コーデックがオンライン動画ビジネスにもたらす影響を Brightcove ユーザへのインパクトとオンライン動画ビジネス・マーケットへのインパクトという 2 つの視点から考えてみました。
Brightcove ユーザへのインパクト
WebM 発表時のリリースにあるように、非常に近い将来、Brightcove ユーザはアップロードした動画を H.264だけでなく、WebMフォーマットでトランスコードすることができるようになります。もちろんWebM フォーマットでマルチレンディションの動画ファイルが生成されます。WebMでトランスコーディングされた動画ファイルは、Flashプレーヤだけでなく、HTML5でも再生することが可能です。ユーザの視聴環境、デバイスに応じ、自動的に最適な動画視聴プレーヤ、動画フォーマットを自動的に選択し配信出来るようになります。開発中のプロトタイプはこんな感じです。
brightcove.createExperiences();
このデモでは、Firefox + Flash で H.264、Safari + HTML5 で H.264、iPad + HTLM5 で H.264、Chromium + HTML5 でVP8 動画をそれぞれ再生していますが、これが一つのパブリッシングコードで自動的にブラウザ環境を検知して切り替わっています。
オンライン動画へのインパクト
今日現在 Web で動画を配信する場合の現実的なオプションは 2 つ、 Flash か HTML5です。Flash Player は2つのメジャーな動画フォーマットFLV、H.264をサポートし、既に75%の動画配信に使われています。HTML5 はPCではブラウザ間のコーデックの足並みが揃わず、今のところアップルのデバイス(iPhone, iPad, iPod Touch)で使われています。
Flash Player と アップルデバイスの HTML5 両方で再生可能な動画コーデック H.264 は動画の圧縮効率も良く、画質の劣化が少ないことから最近広く使われるようになっていますが、MPEG-Lによって知的財産権が保有され、2016年以降もH.264がロイヤリティフリーであるかは不透明です。Mozilla や Opera ブラウザで H.264 が HTML5 の動画コーデックとして採用されなかった一つの大きな原因でもあります。
WebM は H.264 に変わる可能性を秘めている動画コーデックです。その理由は3つ。1) ロイヤリティフリー、2) Flash Player のサポート、3) ブラウザベンダのサポート
- ロイヤリティフリー&オープンソース
動画コーデックはブラウザや Flash Player 等のソフトウェアだけでなく、ハードウェアとも密接に関連しています。ハードウェアレベルで VP8 コーデックがサポートされるかどうかは動画コーデックのエコシステムを作り上げる上で非常に重要なコンポーネントです。ロイヤリティフリーでオープンソース化されたことで、チップベンダーが触手を伸ばしやすくなるでしょう。また、Webの歴史を振り返れば、HTML、CSS、JavaScript などの Webテクノロジーがオープンソースあるいはロイヤリティフリーであり、爆発的な普及や進化の源はオープンにあるといえます。 - Flash Player の WebM/VP8 サポートが WebM 普及に非常に大きな追い風になるでしょう。Flash Player は既に普及率98%、しかも新しいバージョンがリリースされてから普及率 90% 台に乗るまで 18 ヶ月というスピード。しかもクロスOS、クロスブラウザ 。FLV(VP6)、H.264 に加え WebM がサポートされれば、クロスコーデックプラットフォームとして、今後18ヶ月で WebM が再生できる環境が 90+% 整うことになります。
- Chrome、Firefox、Opera がそろってWebM をサポート。これまで足並みが揃っていなかった3ブラウザがそろって同じ動画コーデックを HTML5 のネイティブ動画コーデックとして組み込んでいくことを表明。
今後の課題・注目
Google がオープンソースでリリースしたことに加え、Adobe、Mozilla Firefox, Opera がサポートする WebM への期待度は高騰していますが、Google WebM が超えなければいけない課題がいくつかあることも事実です。
PCでは依然としてシェア No.1 のブラウザ IE が WebM をサポートするかというのは注目です。今のところ Microsoft からは何の発表もありませんが、先日の IE9 での動画コーデック実装には H.264 をサポートし、それ以外は実装しないという発表があったので、WebM をサポートするのかどうかが気になります。
また、Safari ブラウザでの実装も大きなインパクトがあります。特に iPhone、iPad でのSafariブラウザで WebM 動画コーデックがサポー トされるかはスマートフォンでの動画コーデックの普及率に大きなインパクトがあるでしょう。Apple は MPEG-LA のメンバーの一社であり H.264 を強力にプッシュしているので、WebM にどんな反応を示すのか注目です。
最後に
WebM は HTML5 での動画コーデックの論争に大きな前進をもたらす動画コーデックです。Mozilla Firefox、Opera、Chrome がHTML5 でWebM をサポートし、Flash Player もサポートすることにより WebM が今後急速にオンライン動画配信フォーマットとして市民権を得ていくでしょう。
しかしながら、IE9、Apple からのサポートが不透明な現在、すべての環境、デバイスで共通で再生できるユニバーサルな動画コーデックは存在しません。また、HTML5+WebM サポートのデスクトップブラウザが普及しても、HTML4以前のレガシーブラウザのサポートを無視できないことを考えると、ブラウザでWebMをネイティブに再生できる環境への移行はまだまだ時間の掛かるプロセスです(未だにIE6サポートの為に別のコードが必要)。
WebM が動画コーデックとして再生出来るブラウザ、デバイスの普及は一晩では起こらず、むしろ新しいフォーマットが増えたことにより、複数の動画コーデック・フォーマットが混在する時代がしばらく続いていくでしょう。ユーザリーチを最大化するためには、少なくとも H.264 + WebM を動画フォーマットとして、(配信するデバイス) x (OS環境) x (ブラウザ環境) により、HTML5 / Flash Player を使って切り替えていく必要があるでしょう。