メディア バリューチェーンの新潮流:Part 2
Paul Goetz は Brightcove のセールス担当 VP です。本稿は、「新たな」メディア バリューチェーンの創出に関する 2 回シリーズの第 2 回目です。
前回は、現 在のメディア消費環境について考察し、新たなテクノロジや行動様式の変化がデジタル メディア世界の収益競争をどのように変えてきたのかという点を中心に取り上げました。本稿では、量(ボリューム)のエコシステムから、マルチポイントでの価値(バリュー)のネットワークへの転換について、さらに深く掘り下げます。
中間業者を飛び越える企業
オリジナルのメディア バリューチェーンのメンバーのなかで、より小所帯ながらもコアなファンであるオーディエンスの可能性を最も高く評価しているのは、これまでたえず業界の変革を続けてきた大企業です。コンテンツ マーケティングとか、ネイティブ アドバタイジングとか言われますが、呼び名はともかく、企業は放送局やケーブル TV 会社を迂回して、直接消費者にリーチするようになってきています。最も重要なのは、これらの先進的な企業はマッキンゼー社が「オンデマンド マーケティング」と呼ぶ高度にカスタマイズされたコンテンツ エンゲージメント戦略を採用していることです。
動画を活用して消費者に直接語りかけているブランド マーケターの主な成功事例をいくつか紹介します。
- レッドブル(Red Bull):最近の Felix Baumgartner jump などを通じて、最先端のアドベンチャー ブランドとしてのポジション確立を進めているのがレッドブルです。オリジナル エンターテイメントの主力アクセス先として、自社のウェブサイトや SNS ポータルを充実させています。
- バーバリー(Burberry):英国を代表するファション ブランド、バーバリーでは、双方向性を併せ持ったファッション ショーのライブ ストリーミング配信を実施するなど自社からの発信機能を強化し、メディアとしての地位を確立しています。ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)も、現代的なコンテンツを駆使しているファッション ブランドです。実際のファッション ショーをライブ ストリーミング配信したほか、最新コレクションのエッセンスを紹介するドラマ仕立てのオンデマンド型ショート フィルムを制作して、ウェブサイト上で公開しています。
- レクサス(Lexus):無料のオリジナル動画エンターテイメントを集めたポータルサイト「Studio L」を開設。ここで取り扱っているトピックは、ブランドのターゲット オーディエンスの興味関心にマッチすると同ブランドが考えているものばかりです。レクサスはスタジオで制作されたコンテンツを購入し、無料で配信しています。
量 vs 価値: ビッグデータの活用
それでは、コンテンツ パブリッシャにとって、より有効なカスタマイズされたブランド マーケティングの手法とはどのようなものでしょうか? その答えは多岐にわたります。旧型のバリューチェーンでは、多くの視聴者を集めることで、コンテンツ オーナーは量(ボリューム)をマネタイズできました。今日では、価値(バリュー)がこの役割を果たすようになってきている と一般的に考えられています。大がかりなリッチ コンテンツはおそらく、マスの視聴者にはあまり有効ではないでしょう。しかし一方では、そのようなコンテンツを喜んで購読しようとする層もいます。このグループが、コンテンツ プロバイダの主力ターゲット層となります。
企業ブランドの観点では、ビッグデータを活用しながらこれらの主要オーディエンスに訴求することは可能です。これまで何十年にもわたって、企業は既存および見込み顧客のデータを大量に蓄積してきました。今では CRM(customer relationship management)やマーケティング自動化システムも十分に定着しています。企業はこれらのシステムが収集した大量の個人情報を活用して、プログラム化されたサービスや広告を配信しています。一例をあげると、家を最近購入した人は近いうちに、様々な室内装飾の広告や DIY のオンライン コミュニティへの勧誘ターゲットとなる可能性があります。これらの専門業者はウェブサイトやモバイル デバイス経由でターゲットにリーチしてくるでしょう。Cookie を活用されると逃げようがありません。広告主は脈のありそうなオーディエンスをすでに特定済みです。加えて、既存のマーケティング資産を利用してターゲット層を新たに特定することも簡単にできます。例えば、オンライン動画ポータルに集まった属性情報を分析することで、可能性の高い見込み客をたやすく見極められます。
TV ネットワークやケーブル TV 局の創造力
戦略やテクノロジのイノベーションを通じて業界の変革をリードしてきたのは、企業だけではありません。ロングアイランド州最大のケーブル TV 局である Cablevision は、ライブ ストリーミングに適した分野を探り当てました。それは高校スポーツです。Cablevision はロングアイランドでライブ スポーツ プログラムを配信する「唯一」のケーブル TV 局というブランドを確立し、顧客に契約継続の新たな事由を提供しています。このエピソードは、専用コンテンツを保護しながら、希望するプログラムをいつでもどこでも視聴できるようにする TV Everywhere 認証に直接関係しています。
また既存の放送局のなかには、認証されたコンテンツをオンライン配信しているところもあります。例えば、Universal Sports は Universal とケーブル契約している視聴者に、人気あるスポーツ放送のライブ ストリーミング配信サービスをオンラインで提供しています。また HBO のように、契約をしていない視聴者にもコンテンツを配信できるよう、TV 放送局との提携を模索するところも現れています。
政府もこの動きに関与しています。ジョン・マケイン上院議員をはじめとする議員が先ごろ、Television Consumer Freedom Act と呼ばれる法案を議会に提出しました。同法案は、ケーブル TV の契約を「アンバンドル化」し、「アラカルト」方式でよく視聴するチャンネルのみの料金支払いを可能にしようとするものです。この手法は、DVR 機能付きでベーシックなライブTV放送をオンライン配信してい る Aereo のような新興企業からの圧力を受け、既存の巨大ケーブル TV 局のあいだにさえ議論を巻き起こしています。
新潮流のまとめ
モバイル デバイスの拡がりに伴い、TV の意義、ならびに TV がエンタテインメントのエコシステム内で果たす役割を再定義する必要性に迫られています。ともに協力し合ってオーディエンス(顧客)を結び付けてきた企業と放送局は、視聴者がよりカスタマイズされた視聴エクスペリエンスを欲しがっていることに気づく必要があります。TV を取り巻くこれまでのパラダイムは録画と再生というリニアな放送形式でしたが、デジタル スペースはすべてプログラミングされた世界です。双方向の TV からモバイル デバイスまで、新たなデジタル メディア バリューチェーンにはより高い適応性があります。「デジタル」と「プログラム化」の融合は、「TV の未来」がコンテンツとテクノロジの両方に関わる問題であることを示しています。今のオーディエンスは従来と同じ場所に止まってはおらず、視聴エクスペリエンスとコンテンツ選択の双方について、これまでとは異なる期待を抱いています。今後必要とされるのは、ボリュームにもとづくリニアなバリューチェーンではなく、量と価値をミックスさせたマルチポイントのバリューネットワークのみとなるでしょう。そして最も重要なのは、企業も放送局も、あらゆるメディアやプラットフォ ームで動画コンテンツを視聴者に届けることができる信頼性の高いテクノロジ ソリューションが必要だということです。