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メディア バリューチェーンの新潮流:Part 1

Brightcove News

Paul Goetz は Brightcove のセールス担当 VPです。本稿は、「新たな」メディア バリューチェーンの創出に関する 2 回シリーズの第 1 回目です。

1950 年代初頭、TV の大衆化が始まり、自社製品を売り込みたい大企業と、視聴者を開拓し専門コンテンツで収益化を狙うプログラム提供会社の蜜月関係が形成され始めました。つい最近まで、この関係は本質的に変わることはありませんでした。しかしながら、この長年にわたるメディア バリューチェーンに対抗して、新たなチカラが伝統を壊そうと台頭してきました。視聴者が、配信されるコンテンツをひたすら待ち続けてきた寡黙な消費者という姿をかなぐり捨て、主導権を握り始めたのです。

「伝統的な」メディア・エンターテイメント分野のバリューチェーンを見てみましょう。

  • コンテンツ クリエーター:コンテンツを支えるクリエイティブ人材(俳優、監督、脚本家など)
  • コンテンツ オーナー:スタジオ
  • 制作・集約:TV・映画制作会社
  • 配信:放送局
  • 消費:ケーブル TV 局や衛星放送局経由でコンテンツにアクセスする視聴者

また、広告分野の主要プレーヤー・活動は次の通りです。

  • 広告主(企業)
  • クリエイティブ エージェンシー
  • メディア プランニング/メディア バイイング
  • パブリッシング(放送局経由)

基本的には半世紀もの間、安定したシステムが機能し続けていました。そこでは、企業が代理店と手を組んで広告購入を進め、メディア プランナーがその購入枠とスタジオが制作したコンテンツを効果的に結びつけ、スタジオはコンテンツを TV 局(その後 1970 年代にはケーブル TV)に配信しました。そして、この流れの最下流にいて、コンテンツを吸収してきたのが視聴者です。これは驚くほど直線的なプロセスで、TV の世界ではすべてのプレーヤーにきちんと自分の居場所があり、全員がそのポジションに満足している、あるいはある程度仕方なく受け入れているように見えました。すべてのプロセスのベースとなっているのは、量(ボリューム)でした。

テクノロジが変化の土壌を作り、視聴者が主導権を握り始めました。
テクノロジと消費習慣がこのプロセスを完全にひっくり返しました。一例をあげると、多様なデバイスやチャネル、提供元からコンテンツを消費することで、現在では視聴者が産業を動かし、優先順位を変動させています。PC ストリーミングからモバイル デバイスやタブレット上のオンライン動画、OTT、そして動画アプリまで、消費者は今、おびただしい数のメディア消費オプションを利用しています。同時に、CM 飛ばしやプログラム連載などのタイミングを自ら選ぶことで、ゲームの主導権を握るようになってきました。1 つ明らかなのは、視聴者はもはや、つながった鎖の端っこに座って、話しかけられるのを待っている存在ではないということです。逆に視聴者は、自分たちが消費するコンテンツに積極的に参加しています。変革をもたらしているのは視聴者であり、彼らは今、伝統的なバリューチェーンのなかでかつてのプレーヤーが座っていた場所に陣取りながら、計り知れない機会、あるいは恐怖を誘発する脅威のどちらかに直面しています。視聴者は今後どこに向かっていくのでしょうか? そして、彼らにリーチする最適な方法は何なのでしょうか?

下がる参入障壁
これまでの広範囲にわたるメディア チェーンでは、放送局が強力な影響力を保持していましたが、今ではその力も弱まり始めています。コンテンツ配信分野の参入障壁がかつてないほど下がっているというのがその理由です。FOX をに取りましょう。FOX は長年にわたって主要な独立系ローカル TV 局を相次いで買収し、真の放送ネットワークと言われるまでに成長を遂げました。その後、FOX はスタジオへのコンタクトをつけるため、プログラム提供会社を買収しました。そしてコンテンツを充実させた後に、今日の私たちが知る FOX へと進化を遂げたのです。この例から分かるように、放送業界への参入障壁はこれまで極めて高く、多額の投資を要しました。

このような、慎重かつ手の込んだプランニング、ならびに資本投下は今日の環境では必要ありません。今では、アプリ制作や配信ネットワーク構築用のテクノロジやリソースのコストを含め 100 万ドル以下の資金で、誰でも自分のコンテンツ エンジンを制作できます。例えば、Amazon はオリジナルのプログラミングをクラウドソーシングしています。無限かつ無料の動画エンターテイメントの宝庫で知られる YouTube でさえ、有料の会員向けビジネスに参入し、専用のニッチ コンテンツで収益を上げることを目論んでいます。人気の Angry Birds シリーズを制作した Rovio は、オンライン動画ポータル「Angry Birds Toons」をスタートさせました。基本的には、的確な戦略と技術的サポートがあれば、それほど時間をかけることなく消費者のエンゲージメントを獲得できます。アプリを制作し、App Store や Google Play の承認を受けて、Web・モバイル・OTT 向けの戦略を策定すれば良いので、とてもシンプルです。

量 vs 価値
同時に、広告主とコンテンツ パブリッシャはこれまで以上に自分たちのオーディエンスについて理解を深めています。これは、コンテンツ フローが異なる方法でなされているためです。アプリを所有するか、Twitter の会話をモニターしていれば、視聴者が誰であるかについて深い知見を持つことができ、絞ったメディア露出からでもより大きな価値を得られることが分かるでしょう。CPM(1,000 人当たりの広告費)が 50 ドルなら、従来は効果的な広告と考えられてきましたが、今では 1 人当たり 5 ドルで、希望する視聴者ターゲットに直接リーチできます。こちらのほうが間違いなく高い費用対効果をもたらします。オーディエンスが参加するのは、その価値(バリュー)を認めたものに対してであり、本質的に参加は価値の機会をもたらすと言えます。量(ボリューム)が衰退していったのはまさに断片化が原因であり、一方価値がベースとするものは量より質です。かつては大きな売上を上げるために、みんなを TV の前に呼び寄せてウィークリー プログラムを視聴してもらう必要がありました。これは今では不可能ですし、1 人の視聴者を測定するのは現実的ではありません。その代わり、今ではコンテンツの選択肢が数多くあるので、ターゲットを絞って、価値ある視聴者を開拓していくことが真の機会創出につながります。

次回は、コンテンツ マーケティングの登場、「ビッグデータ」と新たなメディア バリューチェーンにおけるその立ち位置、ならびにポジションの維持に向けてケーブル会社がイノベーションを続ける理由とその手法についてディスカッションします。

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