OTT は一撃でダウン?

OTT は一撃でダウン?

5 月、WWE に再度注目が集まりました。ただし、会長兼 CEO の Vince McMahon 氏が期待していた内容ではありませんでしたが。レスリングファンと業界のオブザーバーの両方の期待を背負って、2 月に WWE Network が鳴り物入りで登場しました。順調とはいえないスタートでしたが、このサービスに 667,000 人が登録しました。加入者 100 万人といわれていた採算ラインの目標を達成できなかった WWE でしたが、同社の株は 3 月、52 週中の最高値、31.98 ドルに達しました。

その後も堅調でしたが、5 月 16 日に突然 43% の下落という事態が発生しました。この自信喪失の原因は、そしてこれが OTT にとって意味するものとは何でしょうか?

最も大きな問題は先ごろ NBCU と結んだ放送ライセンス契約でした。金額の詳細は明らかになっていませんが、放映権の更新料が予想よりはるかに低く、2 倍~ 3 倍との予想に反して、50% の増加にとどまった模様です。

McMahon 氏は次のように語っています。「弊社コンテンツの価値上昇と、WWE Network の世界的拡大により、長期的な成長基盤ができます。そしてそれは今後数年に渡って弊社のビジネスに大きな変化をもたらすものになるでしょう。」 WWE Network は WWE の未来を担う存在と考えられており、多くの業界オブザーバーや番組制作会社にとっては、有料テレビエコシステムにおける制作会社の今後の役割を占う存在でもあります。そのため、ライセンス収入が期待されたほど増加しなかったため、OTT の収益増によって補わなければならなくなり、そのためには加入者数の目標を 130 万人から、140 万人に増やす必要が生じたのです。

こうしたカニバリゼーション(同じ組織内で別な商品が共食いする現象)が、異なる収益源、すなわちライセンシングで発生している点は興味深いといえます。NBCU が価値を見い出した(WWE が期待したほうでないにせよ)のは、NBCU がコンテンツによる収益を思うように上げられなかった、または WWE Network の再放送ニーズが視聴率低下を引き起こす可能性がある(そのため価値を低下させる)と判断したことを表しています。

何よりも重要なのは、これが OTT モデルの失敗を意味するものではないという点です。

あまりに多くの金融アナリストが試算や分析をして、WWE のビジネスモデリングを行うとしたためこのような結果になったのでしょう。ある記事はこの状況を、「二重稼ぎ」を目論む WWE として端的に評していますが、実はこれこそ WWE が目指していることだったのです。つまり、 番組放送と OTT の収益を増やし、摩擦(つまりカニバリゼーション)を最小化することを目指しているのです。

WWE Network の素晴らしい点は、基本的にその「商品」が OTT モデルに適していることです。

WWE の調査によると、ブロードバンド導入家庭の約 50% と一部の海外市場が WWE コンテンツに対して親近感を持っていることがわかっています。この「親近感」は WWE にとって大きなビジネス チャンスを意味しています。どのスポーツでも、気まぐれのファン、あるいは勝っているときだけ応援するようなファンというのは決して珍しくありません。プレーオフのゴールポスト付近や、ワールドカップのような国際イベントに集まる「ファン」を見れば、どれほどの人が本当の「ファン」なのか想像がつきます。プロレスの場合、はっきり 2 種類に分けることができます。人気のあるレスラー(Dwayne Johnson のようなセミリタイヤしたレスラーなど)の名前を数人知っている程度なのか、お気に入りのレスラーの細かい動きや試合運びを説明し、決め台詞を真似できるほどの熱心なファンなのかのどちらかに分かれます。

WWE は、以下の 3 つの主な分野に今後も重点を置く必要があります。

  • 国際的なスポーツに成長させる
  • 既存のファン層との関わりを強化する
  • WWE Network をデジタルおよびモバイル プラットフォームとして活用する

特に最後の点は非常に重要です。WWE であれ、他の番組制作会社であれ、将来的な放送モデルの単なる「デジタル版」として OTT を位置付けた場合、価格破壊とカニバリゼーション(デジタルの増加による一般放送の減少、またはその逆)を回避できなくなるでしょう。これを避けるためには、OTT を単なるコンテンツ配信媒体ではなく、365 日 24 時間視聴者を魅了できる媒体として位置付ける必要があります。OTT を双方向のディスカッションのためのプラットフォームとして、これまでの「テレビ」視聴体験よりパーソナルでソーシャルなもの、そしてモバイルで「ローカル」なものにするのです。デジタル化によって、有料テレビプロバイダにとどまることなく、国際的な認知度やプレゼンスを高めることもできます。

WWE Network はまだ始まったばかりです。パーソナライズされたコンテンツ チャンネルからローカル ライブイベントに移行するポップアップ プログラムの仕掛けまで、あらゆる画面で顧客向けのデジタル エクスペリエンスを自由に作成するためのプラットフォームとして活用することで、マネタイゼーションの機会も拡大します。加入者収入と広告収入の「二重稼ぎ」をする OTT サービスは、Hulu Plus の他にも登場しそうです。そのコア モデルがライブイベントに基づいていることを考えると、WWE Network の売上の大半が商品とチケット収入の e コマースによるものだというのは驚きです。

デジタルに賭けるという判断 –OTT 戦略としての WWE Network– は決して容易なことではなく、その前途は多難であることもある程度予想していたはずです。無傷でベルトを獲得するチャンピオンがいないことを考えれば、これは WWE の本質にも符合する点があります。

WWE に対する市場での評価は、現在それ自体が苦戦している有料テレビのビジネスモデルに起因するものでした。間もなく American Broadcasting Companies, Inc. と Aereo, Inc. の間の訴訟に対する最高裁の判決が出ます。WWE にとっては、有料テレビ包囲網の中で現状維持するか、それとも、時間、場所、デバイスを選ばない情報アクセスという将来性に賭けて、デジタルの世界に進出するか、2 つに 1 つの選択肢しかなかったのです。

そして数々のチャンピオンを生み出している McMahon 氏は後者を選んだのです。WWE Network は今まさにウォームアップを終えようとしているところなのです。