他人が敷いた高速道路を駆け抜ける

他人が敷いた高速道路を駆け抜ける

特に予定のない日曜日、私はテレビで数百チャンネルある番組や VOD を見たり、Netflix や Prime Instant Video の何千ものデジタルプログラムを楽しんだりして、のんびりと過ごします。スマート TV やコンパニオンデバイス、スマートフォン、タブレットなど自宅にあるデバイスから、TV Everywhere で認証された広告付きの無料プログラムにアクセスして何時間も視聴することもあります。選択肢はほぼ無限です。ただ家庭でのブロードバンド環境となると、私が選べるのはたった「1 つ」しかありません。

3 月半ば、ソフトバンクの孫正義社長は Sprint に続いて T-Mobile の買収も視野に入れていることを明らかにしました。Sprint と T-Mobile をあわせると契約者は約 8,800 万人に達し、1 億 300 万人のベライゾン、1 億 1,000 万人の AT&T に充分対抗できる勢力となります。

この買収が実現すれば、当初は(価格)競争が激化するでしょう。また、使用可能な周波数帯域幅の拡大(Sprint による Clearwire の買収など)、ならびにワイヤレス技術の向上(スーパーボウル向けにベライゾンが実施した LTE マルチキャストのデモ、Artemis の革新的かつ既存のインフラと互換性のある pCell など)は、ワイヤレス事業者にとって実に大きな可能性をもたらします。

従来の有料 TV サービスを提供していない Sprint にとっては、両社が一緒になることで料金の引き下げにつながりますが、一方で有料 TV の生態系が壊れる危険性があります。

ここで、ケーブル TV あるいは通信会社経由で有料 TV サービスを契約している今日の典型的な消費者の実態に迫ってみましょう。これらの事業者はブロードバンド回線をバンドルで提供していることが多く、他方、大半の消費者はスマホの音声とデータ通信で別々の事業者と契約を結んでいます。

残念ながら、現在の生態系はモバイルのライフスタイルにプラスとは言えません。結果として、いつでもどこでも、どのデバイスからでもコンテンツへのアクセスを期待、いや要求する消費者は、デジタルコンテンツへのアクセスのために様々な会社に料金を支払う必要があります。家庭向けブロードバンド回線事業者(有料 TV 事業者など)や携帯通信会社をはじめ、Wi-Fi ホットスポット事業者・ホテルから、機内事業者まで、挙げればキリがありません。

また、消費者はいつでも有料TV契約を解除できるとはいうものの、ブロードバンド回線の選択肢は有料 TV 事業者が提供するネットワークが唯一であるという場合が多々あります。この状況は有料衛星 TV の契約者にとっても同じです。

私は長年にわたりロサンゼルスで DirecTV と契約しています。DirecTV の「拡張」サービス(VOD、自宅内ストリーミング、オフライン、屋外 DVR アクセス)を利用するには、ブロードバンド回線が必要ですが、私には有料 TV 事業者と契約するという選択肢しかありません。実際、私は DirecTV のブロードバンド回線を利用しています。ただ同社のマイケル・ホワイト CEO が述べているように、大半のデジタルサービスは「他人が敷いた高速道路を通る」必要があるのです。

今日では、家庭内のブロードバンド回線は大半の消費者にとって十分な帯域と月次のデータを提供しています。4G LTE と同等のワイヤレスプランはブロードバンド並みのパフォーマンスを有していますが、一番の障害はコストです。ただ、Sprint をはじめとするワイヤレス事業者が有線のインターネットアクセスに代わるコスト効率に優れたサービスを提供するなら、あるいは提供した際は、消費者とコンテンツ・プロバイダー、ワイヤレス事業者すべてにプラスとなるでしょう。具体的には次のようなメリットがあります。

  • ブロードバンド回線事業者が本格的に有料 TV サービスのバンドル化を止めざるを得ない状況になれば、消費者の選択肢は広がります。自宅と携帯のデータプランを別々に検討したり、引っ越すたびに電話番号やプロバイダーを変更したりする必要もありません。もちろん、ブロードバンド回線のプロバイダーの変更も要りません。
  • コンテンツ・プロバイダーは新たなプラットフォームを活用できるようになります。Comcast の契約者は現在 2,200 万人弱ですが、TWC の買収後には 3,000 万人弱まで増える可能性があります。LEGO Movie が公開された劇場は約 3,775 か所(スクリーン数では 1 万弱)ですが、ワイヤレス事業者なら何千万人もの契約者に配信できます。しかも、同一のスクリーンを視聴している世帯ごとの行動だけでなく、個々の契約者のリアルタイムのエンゲージメント(コンテンツや広告、コンテンツ、視聴場所、用途)まで測定できます。
  • ワイヤレス事業者はモバイルの視聴者に新たな付加価値を提供できるほか、これまでにないデジタル・ライフスタイルを実現します。

ワイヤレス事業者が技術面や配信面での機能を高めるにつれ、コンテンツ・プロバイダーとしても無視できない強力な存在になるでしょう。先般ベライゾンが NFL(全米フットボール協会)のデジタル著作権を 10 億ドルで買いましたが、これはほんの始まりに過ぎません。OTT のサービス(Sony や WWE など)は今後、有料の TV 契約者との関係(Dish や Disney)だけでなく、有料の TV インターネットとの相互依存関係(Netflix や Comcast)も希薄になっていくでしょう。

10 年前には、家庭内の Wi-Fi は信頼性の高いインターネット用 RJ-45 コネクタに対して、依然として「意地悪な義兄弟」的存在でした。携帯電話での動画視聴も、渋滞中のタクシーの中で見る V CAST の 3 分間のクリップに限られていました。

これは決して希望的観測ではありません。(ネットワーク)ケーブルが不要な真のモバイル環境を実現するテクノロジーの進化がすでに起こっているのです。