ケーブル TV の解約、違法コピーと代替シナリオ

ケーブル TV の解約、違法コピーと代替シナリオ

先ごろ GigaOM(ギガオム)上で、海賊版のデータに関するショッキングな記事が掲載されました。そのレポートによると、ABC が放映翌日のオンライン視聴をケーブル TV の顧客と Hulu Plus の契約者に対して制限したところ、違法ダウンロードがなんと 300%も 高まったというのです(制限したのは『Agents of S.H.I.E.L.D.』)。

もちろん、このような数字には驚きを禁じ得ません。そしてメディア企業が抱える課題に対する疑問点を浮き彫りにします。つまりこうです。

  • 年間数十億ドルもの広告収入を稼ぐ ABC をはじめとするメディアの巨人は、コンテンツ配信事業の運営にあたりデジタル著作権管理(DRM)といったコンテンツ保護メカニズムを構築している。そういった環境下で、これほどの規模の不正がいったいどのように起こるのか?
  • 視聴者離れを防ぎながら有料 TV パートナーを満足させるという微妙なさじ加減が求められる事柄を、TV ネットワーク各社はどのように首尾よくこなせるのか?
  • 「不法な」ストリーミングと TV 局の視聴率のどちらが大事なのか?

私の見解はこうです。

DRM はいつも優先されるわけではない
違法コピーが「スタジオ級」の DRM で守られた動画エクスペリエンスにおいて起こったとすれば、コンフィギュレーションあるいは実装段階でのエラーが原因で、視聴者がコンテンツにアクセスできるようになったとのシナリオが考えられます(普通には起こりにくいですが)。実際 DRM は(数々の指針と関連テクノロジーとともに)コンテンツオーナーのビジネスルールに基づき、コンテンツへのアクセスや視聴を制限する効果的な手段として活用されています。しかしながら、コンテンツを「保護」するために規制を強化すれば、消費者はこれらが自分たちのアクセスを「規制」していると感じる可能性があります。

  • 「デバイスが 6 個あるのに、1 個だけアクセスできないのはなぜ?」
  • 「このコンテンツをスマホで見たいのに、ノート PC でしかアクセスできないよ!」
  • 「この新しく買ったデバイス、HDMI 経由で TV につなげられないよ!」
  • 「この前買ったこのコンテンツ、コピーして子供に見せられないのはなぜ?」

ただ違法コピーに関しては、コンテンツオーナーはバリューチェーンの中にいる視聴者以外のメンバーにも注意を払う必要があります。コンテンツは一旦マス配信されるまでに、数えきれないほどの個人、およびシステムの目に触れます。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』が最も話題に上りましたが、映画業界には数多くの関係者が存在します。エディターや製作会社からトークショーの司会者ラジオの DJまで、信頼できる筋でさえ時にはリーク元となる場合があります。

しかしながら、先進のテクノロジーを搭載したシステムでさえ、比較的簡単に破られることもあります。マンハッタンの歩道には、映画館でハンディカムを使って撮影された低品質のフィルムが入った DVD が山ほど捨てられています。また、大手メディア企業が容易に解決しそうもないシナリオを 1 つシェアしてくれました。それは、個人でホテルの部屋(1080 ドットのフラットスクリーンで HD 動画を視聴可能)を借りて、プログラムを録画・エンコーディングして、BitTorrent のネットワークにアップロードするというものです。

技術に精通した、あるいは単に無鉄砲な人たちはなかなか止められません。では、私たちはお手上げ状態で、違法コピーを容認するしかないのでしょうか?

自社のオーディエンスは誰か?
私の考えでは現在 3 種類のオーディエンス層が存在します。

  • 1 つめが、日常的に違法コピーをしたり、違法コピーされた不正コンテンツにアクセスしたりする視聴者です。コンテンツは無料で誰にでもアクセスできるものであるべきで、不正入手も何とも思わない層です。『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウのように、"You cheated(欺いたな!)" と指摘されても、"Pirate(海賊だからな)" と応えるような人たちです。私にはデジタル暗号・セキュリティ分野で活躍する専門家の友人がいますが、個人的には映画や本、音楽、ソフトウェアといったデジタルコンテンツの「共有」を支持しています。
  • 2 つめが、コンテンツを入手可能な形式でのみ閲覧する層です。自分の希望する条件(いつでも、どこでも、どのデバイスでも)で閲覧したいと思っていますが、そのために無理しようとはしません。ネットで可能なコンテンツのみ閲覧し、それ以外は本を読んだり、見るのをあきらめたり、ブルーレイディスクを購入したりと別の手段を取ります。
  • 最後が、「どっちつかずの」(そしておそらく最大の)中間層です。希望するコンテンツは有料で入手することを厭わないながらも、自分の希望する条件(いつでも、どこでも、どのデバイスでも)で手に入れたいと考えています。

ネットワーク各社が狙うべきはこの日和見主義な中間層です。この層はコンテンツの視聴を求めているだけでなく、契約や広告支援モデルを通じてコンテンツに「料金を払う」ことも厭いません。彼らは、規制や著作権、リリース窓口、ならびに DRM のようなテクノロジーが視聴の妨げになると、ややグレーなものから不正なものまで他の手段を講じて入手しようとします。ただアカウント情報の共有においては、すべての企業が Richard Plepler のような寛容な姿勢を保てるわけではないかもしれません。

ケーブル会社と交渉しつつ、自社コンテンツを創る
TV Everywhere(TVE)はプログラム制作会社がオーディエンスに新たな視聴機会をつくりながら、ケーブルパートナーとの関係を強化する手法の 1 つです。しかしながら、使用法の確立や認知の向上、そしてエコシステムのあらゆる関係者に対する長期的な価値の構築においては、依然として高い壁が立ちはだかっています。

最も重要なのは、プログラム制作会社は独自に管理できる自社コンテンツを創り出す必要がある点です。それが他社との差別化を図る1つの要素となります。AMC Networks の YEAH! TV が良い例です。刺激に満ちた双方向の視聴エクスペリエンスを創り上げると同時に、AMC の売り上げに占めるデジタル分野の拡大(ならびにネットワークの拡充とブランド力の向上)に貢献しました。ぜひオンラインで好きな映画やインタビューを観て、クイズやアンケートに参加してみてください。これらすべてにかかる費用はほんのわずかです。この AMC の取り組みはまさに特筆に値します。

どこからでも、どのデバイスからでも合法的に簡単に入手(閲覧)できるのであれば、動画を盗み出す必要はありません。

操作された視聴率を気にすべきか?
また先の GigaOM では、『AGENTS of S.H.I.E.L.D』が順調なのは Nielsen の評価だけでありながら、実際は爆発的なニーズがあったことが記されています。合法的な成功と非合法の成功の間で、ネットワーク各社(およびスタジオ)はどのように折り合いをつければよいのでしょうか?

本ブログで申し上げた通り、すべては「自社のオーディエンスは誰か?」に帰結します。コンテンツの違法コピーを何とも思わないオーディエンスと関係を深めたいですか?確かに違法コピーを軽視する向きはあるかもしれません。Time Warner の Jeff Bewkes CEO のように、違法コピーは認知を高める宣伝行為の 1 種で、エミー賞よりプロモーション価値が高い財産だと捉える人もいます。ただ、『ゲーム・オブ・スローンズ』のような大ヒット作でないプログラムではどうでしょうか?視聴率と売上がけた外れの数字になるのはほぼ皆無でしょう。違法コピーをみるオーディエンスを「改心」させようとする試みは、期待する結果に至らない可能性が高いでしょう。

しかしながら、「どっちつかずの」中間層からのニーズがあれば、コンテンツオーナーは自社の配信戦略を見直すべきです。遅れを減らしたり、ネット配信サービス向けの視聴オプションを拡張したりして、自分たち(およびその視聴者)へのサービスが改善されるかどうか見極める必要があります。

最終的には、違法コピーが当たり前の世界になったのなら、ネットワーク各社は自社のツールやターゲットオーディエンス、関連する配信戦略との関係性を再評価する必要があります。最後は数がモノを言うゲームなのです。

皆さんからのコメントをお待ちしています。