デジタル パイオニアの告白

デジタル パイオニアの告白

本ブログは、業界アナリストで Lovelace Consulting のディレクターを務める Graham Lovelace 氏による寄稿記事です。

皆さん、パイオニアになりましょう! 誰も踏み込んだことのない未開の土地を切り拓いていきましょう。新しいこと、誰もが羨むような世界を変革する何かを設計・構築・開始しましょう。こんなにワクワクすることはそうそうありません。

さて、地上デジタル放送は先ごろ 15 周年を迎えました。記念のレポート読んでいると、1990 年代半ばのバラ色の思い出が次々と蘇ってきます。当時 World Wide Web(WWW)はまだ黎明期で、ブロードバンドはオフィスで利用するものでした。自宅だと待ち時間ばかりが続く World Wide Wait となる時代でした。

私は時代を切り拓いてきたパイオニアの 1 人だと自負しています。当時私は Teletext Limited で信頼できる仲間に囲まれて仕事に精を出していました。パイオニアを見分ける方法は簡単だと彼らは言います。背中に矢印があるかどうかだと。この点では私も証人の 1 人です。私の背中にも実はまだ傷跡が残っています。Teletext(文字多重放送)は ITV や Channel 4 といった英国の主要民放チャネル向けに双方向の情報サービスを提供し、大変な人気を誇っていました。今「双方向」という言葉を使いましたが、まず視聴者はリモコンの TEXT ボタンを押して 3 桁の番号を入力します。すると、最新ニュースやスポーツの結果、天気予報、TV 番組表などの情報やエンタテインメント(芸能人のインタビューやライフスタイル特集に加えて、Bamboozle のデイリークイズなど)が、英国中のアナログ TV の変換装置経由で放送される仕組みです。英国全体、あるいは現地のサービスを提供しており、情報にアクセスするには Teletext のチップを搭載した TV が必要でした。1993 年に Teletext Limited を立ち上げてまもなく、Teletext 付きの TV の普及率は英国の家庭の 5 割を超えました。毎日このサービスを使用するロイヤリティの高い一般視聴者は数多くおり、何百万もの広告に対応してきました。

1990 年代中頃、Teletext はイノベーションの最先端を行く代物でした。TV がちょうどデジタルに移行する時期で、ライブ動画やグラフィックをふんだんに盛り込んだリッチページを提供する機会がもたらされました。TV 番組製作会社が、今コネクティッド TV あるいはスマート TV と呼ばれているモノの可能性について検討し始めたのもこの頃です。初期のプロトタイプはなんとダイヤルアップのモデム付きでした!この頃、米国の新興企業である WebTV がセットトップボックスの提供を開始し、待望の TV 放送と Web の融合がようやく現実のものになってきました。携帯向けのインターネットサービスはまだスピードが遅く洗練されていませんでしたが、大きな可能性を秘めていました。これらのあらゆるプラットフォームやデバイス上にTeletextを搭載し、デジタル TV やオンラインでリーダーとしてのポジションを確立しようとする動きが急速に進められました。

ただ実際は厳しい困難が待ち受けていました。その多くはいわゆるイノベーションのジレンマと呼ばれるものです。これは、成功した企業は既存の技術やモデルを根本から覆してしまうような「破壊的」な技術あるいはビジネスモデルに投資するのが難しくなるという理論です。一方で、このような破壊的な技術やビジネスアプローチこそが既存事業の枠を超えて新たな市場を創り出すのも確かです。最終的に Teletext は 2010 年に TV での放送を中止しました。

今日、破壊的イノベーションの可能性はバリューチェーンのあらゆるポイントに存在します。新たなコンテンツ フォーマットやコンテンツ生成技術は視聴エクスペリエンスの現実感や躍動感を向上するほか、エンゲージメントを高めます。コンテンツ製作者やアグリゲーター、著作権保有者が消費者と直接つながる新たな配信チャネルが生まれ、コンテンツが従来の放送局や TV プラットフォームを介在せずに流れる「中抜き」状態が発生しています。また新たなデバイスの登場で、これまでにない指標や分析から導き出されたデータに基づいて、異なるスクリーン上に表示する広告をシンクロさせるといったマネタイズの新たな機会がもたらされています。

格言にある通り、予測はきわめて難しいものです。特に未来に関してはそうです。番組表に記されたリニアなプログラムの視聴はデジタル TV の登場から 15 年間はほぼ確実に続くでしょう。ただ、現在地上デジタル放送が使用している帯域の大半は携帯事業者に割り当てられたほうがよかったと思われます。また今後はこれまで以上に視聴体験のハイブリッド化が進むでしょう。番組表とオンデマンド/放送とブロードバンド/大画面(55 インチ以上の TV)と小画面(スマホ)と中画面(タブレット)がそれぞれブレンドされていくと見込まれています。

それでは最初に戻って、パイオニアについてお話しましょう。実はパイオニアはどこにでもいます。常識に捉われない思考と行動力をもとに既存の勢力に立ち向かい、挑戦し、駆逐する人はすべてパイオニアです。勝つためには、新たな市場で真のパイオニア、最初の実行者にならなければならないという幻想は、奇しくもドットコムバブルの崩壊で打ち砕かれました。素早くフォロワーになり、乱れ飛ぶ矢に当たってパイオニアが倒れる様子を見ながら安全な道を見極めることに大きなメリットがあることを私たちは学んだのです。

Graham Lovelace 氏は 1993 年から 1999 年まで Teletext Limited の編集長を務めました。現在はアドバイスやコンテンツ、イベント業務を手がけるメディアコンサルティング会社 Lovelace Consulting のディレクターを務めています。加えて、International Broadcasting Convention (IBC) のコンテンツ エディター、The Infographics Agency の共同創業者、SecondSync 非常勤取締役、ならびに Denovo のシニア スペシャリスト アドバイザーを務めています。