リーンバック エクスペリエンスで視聴者を惹きつける

リーンバック エクスペリエンスで視聴者を惹きつける

恐怖に駆られるのは嫌なものです。私の家内はフクロウを怖がります。私の場合は使い古した円盤型のハードディスク ドライブです。これをクリックするといつもウィーン、カチ、カチ、カチ、ウィーン、カチ、カチ、カチと今にも壊れんばかり音を立てるので、背筋が凍りつきそうになります。反対に私の同僚は、物理の法則と、背中にリップストップ ナイロン製のパラシュートさえあれば、飛行機から飛び降りるのも怖くないそうです。ただ、その彼もピエロの隣に座ったら、どうでしょうね。

仕事でお付き合いのあるパブリッシャの多くは、夜も眠れなくなるような懸念を一様に抱えています。フクロウやピエロ(あるいはピエロの格好をしたフクロウ)ほど見た目の怖さはありませんが、どうやったらユーザ エンゲージメントを高められるかについてパブリッシャは頭を抱えています。特に苦慮しているのが次の 2 点です。

  1. セッションごとの動画の視聴数をいかに増やすか
  2. 動画の視聴時間をいかに延ばすか

この問題に対し、質ではなく量を追い求めたり、短尺の動画コンテンツを制作したりといった守りの対応を取るパブリッシャもいます。頂点に君臨するのは今でもコンテンツで、質を犠牲にして量に走れば、どのパブリッシャもブランド力の毀損やコア オーディエンスのロイヤルティ低下に陥る可能性があります。

コンテンツをモバイル向けに短尺化し、限られたアテンション スパンを狙うようなセグメント化に方向転換することさえ、小手先の打ち手にすぎません。というのも、従来の短尺のインストリーム プレロール動画で収益を上げているパブリッシャは、マネタイゼーションとのバランスを取る必要があるからです。なかには、どこにでもあるような 90 秒から 5 分のクリップに、1 つ以上のプレロール(30 秒および/または 45 秒のクリエイティブ)を付けるといった大雑把なルールを導入しているパブリッシャもあります。このコンテンツ/広告比率はこれまでのブロードキャストでは標準的なレベルかもしれません。ただオンライン視聴は現在、タイムシフトでの視聴エクスペリエンス(スキップ可能広告など)や表面的な広告種類の減少とも競い合っていることを、パブリッシャは認識しなければなりません。録画したお気に入りのプライムタイムのエピソードを見ているときに、同一の 30 秒広告が 10 ~ 12 回も流れたら、視聴者にとって小さな「恐怖」となるでしょう。

このような環境下において最も効果のある方策の 1 つが、実際に視聴されたコンテンツ量をベースに広告とコンテンツの適正な割合をはじき出し、インストリーム広告(プレロール・ミッドロール・ポストロール)を絞ることです。こうすれば、適切な水準のマネタイゼーションをキープしながら、ユーザのブラウジング ペナルティを削減できます。

Keep On With The Force Don't Stop / Don't Stop 'Til You Get Enough(この勢いに乗って 止めないで / 満足するまでやめないで)
私からパブリッシャへの提案は、1 つひとつの視聴エクスペリエンスを「リーンバック エクスペリエンス」として捉えることです。このコンセプトでは、相関関係にある次の 2 つの事項にフォーカスします。

  1. 1 つひとつの動画は無限のプレイリスト内の 1 コマにすぎない
  2. それぞれの動画エクスペリエンスは利用者にとってはリニアにつながっているものの、ダイナミックなコンテンツ コントロールが可能

無限のプレイリスト

ユーザからのすべての「プレイ」リクエストに対し、パブリッシャは動画のエンディング コンセプトを再定義するとよいでしょう。現在の動画エクスペリエンスでは、エンド スクリーンに SNS 機能を貼り付け、ユーザに共有を促すだけのものが大半です。この手法はプロモーション目的としては有効となりえますが、視聴エクスペリエンスをストップさせてしまいます。往々にしてエンド スクリーン上に、先に視聴した動画に関連するコンテンツ(例えば人気度やメタデータ分析にもとづくもの)が表示されますが、多くのユーザにとって選択肢があまりに多いため、結局何も選ばないという分析麻痺状態になりがちです。

無限プレイリスト モデルでは、それぞれの動画が別の動画にきちんと紐づけられており、視聴者が次に関心のありそうなお薦め動画が表示されます。

このモデルのコンテンツ プログラミングは、ダイナミック レコメンデーション モデル(Pandora や Netflix など)やキュレイテッド デイパート モデル(Sirius や TV 放送など)、あるいはそのハイブリッド型と同じくらい洗練されたものになりえます。

とはいえ、根本にある狙いは 1 つです。それは、すべての動画に「次」を設定し、コンテンツのプログラミング言語から「ストップ」をなくすことです。

リニア + ダイナミック = リーンバック

Netflix のスクリーンを動かしている目に見えない専門エンジンについてとやかく言う人がいますが、これと同じような仕組みは Amazon での注文や Google 検索、地元のスーパーでの買い物などでも見られます。すべてデータにもとづくナビゲーション・選択支援の手法で、これらが私たちの選択行動に影響を及ぼしています。

一緒にお仕事をさせていただいているパブリッシャの多くは、相反する次の 2 つのニーズをともに満たすことを望んでいます。

  1. パブリッシャの視座確立に役立つ、あるいはその編集方針および/またはプロモーション目的に沿ったコンテンツ キュレーション
  2. 消費者 1 人ひとりの志向、または各自の選択や検索と直接結びついたコンテンツ配信(ただし検索結果でさえ、明確に定義された志向・優先度・キュレーションの基準をベースにしているという議論もあります)

標準的なナビゲーションや検索メカニズムに加えて、検討に値するのはダイナミック リニア チャネル モデルの生成です。各チャネルはその選択やシーケンシングに影響を与える様々な要因で構成されています。視聴者がある動画を見たり、スキップしたりすると、その行動がキャッチ・処理され、クローズド ループ モデル内で今後のチャネル生成に反映されます。
動画メタデータにもとづいて共通項を高めた論理的リンケージのほかに、チャネルは以下の要素を踏まえてダイナミックに生成されるのが好ましいといえます。

  • 視聴時間:視聴者の利用時間に応じて、各視聴者の好みのコンテンツの長さを特定する
  • 視聴時間帯:1 日の各時間帯における利用パターンに応じてコンテンツの優先順位を変える
  • 視聴デバイス:モバイル プラットフォームやモバイル OS(iOS、アンドロイドなど)、視聴端末(スマホ、タブレットなど)ごとの利用パターンに応じてコンテンツの優先順位を変える
  • 所在地:視聴者の物理的所在地にもとづいてコンテンツの優先順位を変える

これらのチャネル ルールはコンテンツ キュレーションへの熱い想いを削ぐものではありません。パブリッシャはラジオや TV の番組表さながらのより正式なチャネルを生成し、それらを独立したコンテンツ チャネル、または前述の要素を取り入れたソース チャネルとして使用することも可能です。

ここで、ダイナミック リニア モデルにおける視聴者のガイドとして、動画利用エクスペリエンスに付け加えるとよい視覚的な仕掛けをいくつか紹介します。まず、コンテンツがリニア チャネルであることをパブリッシャからユーザに伝えるとよいでしょう。この意味するところは、視聴者は次の動画コンテンツを見られるものの、「予定の/シーケンスされた」プログラミングをその場で中断する自由を完全には与えられていないことです。特にフルスクリーン モードでの動画エクスペリエンスにおいては、視聴者が知らぬ間にクリック 1 つで他のサイトに行ってしまわないように、次の動画が用意されていることをはっきりと示すのが得策です。これは、エンディングのクレジットロールが別のオプションを誘発しやすいブロードキャストやシンディケーションでは一般的な手法です。周知方法としては、次の動画のアニメーションを途中で一部挿入するといった直接的なものから、一行のテキストでのお知らせやカウントダウン タイマーのグラフィック表示など、それほど目立たないものまであります。

リーンバック エクスペリエンスと同じく、プレイバックにおいても、パブリッシャはコアの動画プレイバック エクスペリエンスが利用者向けの品質をきちんと担保しているか確認すべきです。これは、プレイバックがタブレットまたは TV(AirPlay や Miracast、あるいは同様のデバイス ファースト モデル)のどちらでなされようと変わりません。クリアすべき品質基準は次の 2 つです。

  • クライアントサイドの機能性、あるいはサーバーサイドのスティッチング(HLS などのマニフェスト ベース モデル向け)によるコンテンツおよび広告のバッファリングの最小化
  • 利用可能な帯域幅(タブレットや TV 向けでは最大フル HD (1920 x 1080))に適した最高品質の ABR プレイバックの提供

従来のリニア プログラミング モデルにデジタル ターゲティングやプレイリスティングのダイナミック特性を組み合わせたり、それに加えて視聴者にとって無限の動画コンテンツの提供を考慮に入れたりすることで、パブリッシャは動画利用行動をリーンバック エクスペリエンスにまで発展させることができます。その結果、クリックやスワイプなどの手間をかけずに価値あるコンテンツを見つけ出して楽しみたいという視聴者の願いに応えられるようになるのです。