モバイル視聴者「えこひいき」のススメ(パート 1)

モバイル視聴者「えこひいき」のススメ(パート 1)

「えこひいき」が好きな人はいませんし、誰だってキックボールのメンバー選びで最後のひとりに残りたいとは思わないでしょう。時代は変わり、自分でチームを作ることで最後まで選ばれないという憂き目を避けられるようになりましたが、えこひいきしなければならないときだってまだあります。

モバイル視聴者向けの動画エクスペリエンスの定義、設定、提供においては、特にそうです。2007 年の iPhone 発表、2008 年の Android 携帯発売、さらに 2010 年の iPad 登場で、米国のパブリッシャは、手間暇のかかるフィーチャフォンからスマートフォンやタブレットへの移行を余儀なくされるようになりました。スマートフォン(いよいよフィーチャフォンを上回ることが予想されています)とタブレット プラットフォームの拡大にもかかわらず、あらゆるモバイル プラットフォームで機能やコンテンツをまんべんなく維持しようとしているパブリッシャが多く見受けられます。

統一感のない断片化されたモバイル プラットフォーム機能を考えた場合、これは正しい戦略なのかどうかとパブリッシャは自問する必要があります。

えこひいき

パブリッシャは、モバイル環境での断片化と、それに伴う偏りは今後しばらくの間は避けられないという現実を受け入れる必要があり、モバイル プラットフォーム機能に応じて動画エクスペリエンスを最適化しなければなりません。これは特定の視聴者に向けた機能、コンテンツ戦略、マーケティングを優先することを意味しています。モバイル環境全体で均一性を確保しようとして失敗するのではなく、パブリッシャはあえてえこひいきによる格差を認め、受け入れる必要があり、だからこそモバイルの将来を享受することができるのです。

90 年代後半、私は Fortune 50 企業向けのエンタプライズ ソフトウェアを開発するソフトウェア会社にいました。当時、Netscape Communicator がブラウザの主流でしたが、相変わらず DCOM、CORBA、Java RMI にこだわっていました。そしてその頃、アップルは Cyberdog をお蔵入りにしました。

このソフトウェア会社が発表した新製品は、コンピュータからヘリコプタ、果ては生命保険に至るまで、ありとあらゆる製品やサービスに対応した動的な価格モデルを作成を可能にしました。このソフトウェアの機能的な強みは複雑な価格ルールをすぐに、そして正確にモデリングできることにありましたが、一番の戦略的な強みを見出したのは管理コンサルティング パートナでした。このソフトウェアの本当の価値が、価格モデルの精度や有効性にではなく、長期的な価値をもたらす顧客セグメントの識別機能であることに、コンサルタントは気がついたのです。「最優良」と思われる顧客でも、その顧客を引き付けようと適用した割引が災いして、結果的に最も利益の上がらない顧客になってしまうケースが、実際にはありました。

パブリッシャは、これと同じ見方でモバイル プラットフォーム(そしてそれを利用している視聴者)を見て、どのプラットフォーム(視聴者)に投資するのが効果的かを判断する必要があります。対象となるプラットフォームでのマネタイゼーション、測定、配信が効果的に、効率よく行えないのであれば、そのモバイル視聴者セグメントへの投資を行っても成功しません。過去数年間、パブリッシャは各種プラットフォームで均一なモバイル動画戦略を展開するために、「最小公約数」のアプローチを行うのが一般的でした。このアプローチとは以下のようなものです。

  • 互換性のためだけに最適なビットレート、フォーマット、プロトコル、コーデックをあきらめ、単一ビットレートでエンコーディングされたレンダリングを行う
  • プリロール、ミッドロール、ポストロール広告のサーバ側を固定的につなぎ合わせる(この種の広告はユーザが容易にスキップ可能)
  • マネタイゼーションや測定が可能なブランドごとの動画エクスペリエンスではなく、URL によってコンテンツ シンジケーションを行う
  • プログレッシブ ダウンロードによって、長尺のプレミアム コンテンツを提供する

パブリッシャが今後直面する課題

それでもパブリッシャのニーズの変化は、大半のモバイル プラットフォーム機能の進化よりも速かったのです。最小要件には通常、オンデマンド動画(VOD)やライブ ストリーム コンテンツのためのアダプティブ ビットレート ストリーミング、コンテンツ保護(DRM、暗号化など)、ユーザへの権限付与(TVE など)、広告と測定のための継続的な再生機能が含まれています。

この種の基本的なニーズに基づき、パブリッシャはプラットフォーム機能と普及率に応じてモバイル視聴者を分類し終えるまでの長い道のりを覚悟しておく必要があります。機能面では、ネイティブ アプリケーションと HTML5(モバイル Web)の両方をサポートして、プラットフォーム アクセスを提供する必要があります。普及率に関しては、現在の普及台数と増加の可能性によってプラットフォームの測定を行う必要があります。

主役は iOS

モバイル環境では、iOS が機能と普及率の両面でデファクト スタンダードとしての地位を確立しており、今や何よりも iOS を優先する必要があります。

iOS は、HTTP Live Streaming(HLS)による VOD とライブ コンテンツのアダプティブ ビットレート ストリーミングなど、モバイル Web 用の豊富な動画機能を提供しています。また iOS は AES-128 コンテンツ暗号化、HTML5 の強力なサポート、AirPlay、確立されたネイティブ アプリ エコシステム(DRM、アプリケーション内での購入、ローカルおよびプッシュ通知など)によって拡張されたクローズド キャプションの組み込み機能も備えています。ネイティブ アプリの承認プロセスの複雑さによって、厳格なゲートキーピング システムができあがったという噂もありますが、未だ開拓途上のモバイル環境には何らかの「法整備」が必要で、アップルのプロセスは今のところ誰にとっても有益なものといえます。

最大の課題は、「モバイル Web 専用」の戦略が十分なものかどうかという点です。動画エクスペリエンスよりも、別なコンテンツ タイプや、動画コンテンツ以外の手法(インタラクティブなゲーム、対面コミュニケーション、コンテンツ作成など)を重視するパブリッシャの場合、以下のような iOS 上での HTML5 サポートでおそらく十分でしょう。

  • 暗号化された VOD やライブ ストリーミング コンテンツのアダプティブ ビットレート ストリーミング
  • 特定ブランドのユーザ エクスペリエンス確保(カスタム UI エレメントなど)のためのインライン再生 (iPad 上)、クローズド キャプションのためのサイドカー DFXP のレンダリング、ノンリニア広告
  • インストリーム広告(プリロール、ミッドロール、ポストロール)
  • 分析と QoS

iOS 内ですら見られるデバイスやオペレーティング システムの断片化を解決するために、まだかなりの作業が必要ですが、新しい iOS バージョンの普及率と比較的詳細に定義されたハードウェア プロファイル セットによって、ほとんどのパブリッシャにとっては HTML5 のサポートが可能になったというだけではなく、最低限必要な要件になりました。

ネイティブへの移行

それでもパブリッシャは、iOS 上のモバイル Web を単なる基礎と見なし、これだけでは差別化には不十分だと考える必要があります。過去 1 年の間に、ほぼすべての主要なメディア パブリッシャは、1 つ以上のネイティブ アプリを新たに提供しています。ネイティブ アプリの開発における課題は決して少なくありませんが(Objective-C スキル セットの確立、またはハイブリッドもしくは代替開発アプローチの模索、新しいコンシューマ タッチポイントの維持と運用、既存のデスクトップ利用を補完する(お互いに足を引っ張るのではなく)新たなタッチポイントのアウェアネス向上など)、ネイティブ アプリは豊富な機能を提供してくれます。

動画利用エクスペリエンスに関しては、特に以下のようなサポート機能が挙げられます。 

  • オンラインおよびオフライン DRM
  • イマーシブ(没入型)でユニークな広告エクスペリエンス
  • ユーザ エクスペリエンス(ソーシャル アイデンティティ、共有、サブスクリプションおよび TVE など の関連するユーザ権限付与を含む)のコントロール機能強化
  • 疑似リニア再生、マルチカメラ再生、AirPlay によるデュアル スクリーンなどの高度な動画エクスペリエンス

2012 年第 4 四半期のタブレット売上に関するニュースでは、Android がマーケット シェアを拡大しているようですが、今後 12 ~ 18 か月間は iOS 用に最適化された基盤を構築することが引き続き必須要件になるでしょう。iOS ユーザが他のユーザよりも「よい」かどうはわかりませんが、パブリッシャは iOS が最も魅力的なモバイル Web およびネイティブ アプリ プラットフォームであることを認識する必要があります。

iOS 上のモバイル Web サポートにより、パブリッシャはスタート ラインに立つことができますが、ユーザとの緊密な関係を確立、維持し、コンテンツやブランドの差別化によって競争に勝つには、プラットフォーム機能、中でもネイティブ機能を十分に活用することが不可欠です。

スマートフォン vs. タブレット

そしてパブリッシャがスマートフォンとタブレットのいずれに重点を置くべきかを議論しているのであれば、変幻自在の iPad(登場してからまだ数年しか経っていないにもかかわらず)が動画利用エクスペリエンスに大きな影響を及ぼしており、今後もさらに影響を受けるだろうという点にも注目する必要があります。このデバイスによって動画の購入、共有、利用の方法、タイミング、場所が根本から変わり、いつでも、あらゆる場所(たとえば飛行機や電車、自動車の中)で、気軽に動画を利用できるようになりました。つまり、iPhone は素晴らしいデバイスですが、iPad は素晴らしいプラットフォームなのです。

次回の記事では、Android、Windows、およびフィーチャフォンがどのようなモバイル戦略に適しているのか、あるいは適していないのかについて説明したいと思います。